『パリのすてきなおじさん』文と絵 金井真紀、案内 広岡裕児
この本を手に取るきっかけは王様のブランチの本のコーナーの紹介でした。
タイトル通り、文と絵担当の金井真紀さんが広岡裕児さんの案内でパリのおじさんをインタビューしていく、という内容。
年齢(29歳~92歳まで)も人種もさまざまなパリのすてきなおじさんのインタビュー記事なんて、きっと楽しいだろうなぁと気楽な気持ちで図書館から借りてきました。
チャーミングなおじさんの名言満載
実際読み進めて、チャーミングなおじさんがいっぱい。
気になった名言を少し紹介します。
アラブのお菓子を売るユダヤ人、ギイさんのことば↓
「いいお仕事ですね」と言うと、ギイじいさんは穏やかな顔つきでうなずいた。
「うん、そうだな。わしは、おいしいものをつくることと、人と接することが好きだな」
老舗クスクス屋の店主ファイサルさんのことば↓
いま世界で起きていることは、イスラム教とは関係ない。ただ憎しみを増幅させているだけだ。
ほとんどの問題は、他者を尊重しないから起こるんだ。
この「ほとんどの問題は、他者を尊重しないから起こる」という言葉、すごい刺さりました。
たしかに、こと人間関係において、相手の諸々を尊重出来たらけっこうな確率で問題が回避できそう。
涙腺決壊。75年前「隠れた子ども」だったおじさんの話。
「魅力的なおじさんでいっぱいだなぁ~」と気楽な気持ちで読み進めていた本書。
75年前「隠れた子ども」だったロベール・フランクさんのお話で不覚にも涙腺決壊しました。
「隠れた子ども」とはユダヤ人狩りの際にフランスの市民が命がけでかくまったユダヤ人の子どもたちのこと。
名前を変え、経歴を変えて生きのびた子どもがそう呼ばれているそうです。
フランクさんの回の冒頭の金井真紀さんの文↓
正直に告白しなければならない。長いあいだわたしは、第二次大戦中のユダヤ人虐殺、いわゆるホロコーストはドイツのはなしだと思っていた。
~中略~
そうではなかった。フランスでも大量のユダヤ人が強制収容所へ連行されて殺された。
第二次大戦中、ナチスに協力的なヴィシー政権下では激烈なユダヤ人狩りが行われたのだ。
金井さんに同じく、恥ずかしながら私も「ドイツのはなし」だと思っていました。
全然違ってました。思えば杉原千畝がいたのもリトアニア。
ドイツ国内だけじゃなく広範囲でユダヤ人が迫害されていたんでした。
本書に載っているロベールさんの体験記は壮絶。
バスに乗せられて、アングレームという町の音楽ホールに収容されました。
音楽ホールといっても、座席は全部取り払われていて、床に藁が敷かれていた。そこに四百人がぎゅうぎゅう詰めにされました。
~中略~
今考えると、下の弟は二歳半でまだ母乳を飲んでいました。あんな状況で、母のおっぱいは出たのだろうか。
なんだかね、いまになってそんなことが気になります。
連行されたとき、ロベールさんの弟さんが二歳半・・・いま自分の子供も二歳半なので、ご両親の心配や無念を思うと本当に苦しくなりました。
普段は気にしていない普通の事・・・子供にご飯をお腹いっぱい食べさせることができること、清潔な服を着せてあげることができること、安全な場所で寝かせられること・・・いろんなことが当たり前にできる日常に改めて感謝しました。
また、同じく政治によって複雑な人生を歩んだベトナム人のレ・ディン・タイさんの「大事なのは将来ではない。いまですよ。いま、この瞬間に大事なものをちゃんと愛することです」という言葉も深く印象に残りました。
気楽なつもりで読んだけれど、いろんな人の人生がギュッとつまった一冊です。