本の感想『宝石 欲望と錯覚の世界史』エイジャー・レイデン 著
タイトル通り宝石について書かれている本書。
Contents
ダイヤは余っている?
第2章のダイヤモンドとデビアス社をめぐる話が驚きの連続でした。
第2章の始まりに引用されている名言↓
深い心理的欲求を満たしてくれる以外、ダイヤモンドは本質的に無価値。
ーデビアス会長、ニッキー・オッペンハイマー
冒頭から「ダイヤは無価値」ってデビアスの会長が言ってるのか~い!?と衝撃。
そもそも、「ダイヤはたくさん採れてて、流通量が制限されてるだけでそんなに貴重ではない」という事実はいろんなところで言われています。「マツコの知らない世界」でも宝石商のカピルさんが番組冒頭で言ってました。
「希少性」の危機。ダイヤ採れ過ぎ問題。
一八八二年、ダイヤモンド市場は崩壊する。
その十年前の一八七二年のことだ。100万カラットのダイヤモンドが南アフリカの大地から毎年発見されていた。それ以外の産地を合わせた五倍の量だった。
この一文を読んだときの感想→「市場の崩壊早くない!?」
採れ過ぎて困ってるのってここ最近の話だと思っていました。
すでに19世紀に採れ過ぎ状態だったとは・・・逆に、よくここまで貴重品としてもたせてるな!ガッツあるな!と感心。
危機は何度も訪れます。
採れ過ぎからの採掘量制限をした後↓
この方法は魔法のようにうまくいった。・・・少なくともしばらくの間は。
しかし、一九〇八年にダイヤモンド・パニックが勃発し、ダイヤモンド市場は再び崩壊の危機に陥った。第一次世界大戦勃発前、ダイヤモンドの価格は下落していった。
ダイヤモンドは食料や電力、鉄鋼のような生活必需品ではない。生活が厳しい時に宝石をたっぷり用意するようなものは誰もいないのだ。
戦争に備えて生活必需品を揃える人々にダイヤは見向きもされなくなってしまい、さらにこの時期に別の巨大なダイヤモンド鉱脈が次々と発見され大ピンチ。
では、打つべき手は何か。
デビアスは需要を管理するために価格設定と供給を人為的に操作したのである。
デビアス社はダイヤモンド市場を独占し、価格と供給量を完全に操作するようになりました。
婚約指輪とセレブな「イメージ」
N・W・エイヤー社はダイヤモンドを売っていたわけではない。同社が売っていたのはダイヤモンドに関するコンセプトだったのだ。
特にダイヤモンドの婚約指輪というイメージだ。
確かに「婚約指輪と言えばダイヤ」なイメージ、あります。
広告代理店はダイヤのイメージを「特に必要と感じない宝石」から「結婚時の必需品」へと変えるようにガンガン宣伝しました。
本当に高貴な世界の王族や貴族の婚約指輪がダイヤでなくカラーストーン(エメラルド・ルビー・サファイア)が多いのはこのコピーに影響されない立ち位置だからなのか・・・。
ダイヤに興味のなかった中間層に「婚約指輪」という形で売る
デビアスのジレンマはいかにして規格外の小さな色のないダイヤモンドを、無関心なアメリカ大衆に売りさばくかにあった。
まず、ディグナムとゲレティは「ダイヤモンドがなければプロポーズは本物ではない」ということを女性たちに信じ込ませていった。
有名な宣伝コピー「ダイヤモンドは永遠の輝き」はゲレティさんが考案したもの。
このコピーは『Advertising Age』誌により世紀のコピーに選ばれました。
結果的にプロポーズに婚約指輪は必需品というイメージ、しっかり定着しました。
小さい石を中間層の婚約指輪に
ダイヤモンドを売りさばくのだ。
非常に小粒で誰も欲しがらないような原石をきれいに飾って、まるで特別な、重要な何かのようにして売り出すのだ。
この、「ちっちゃい石を小金を持った中間層に売りたい」という話・・・「確かに婚約指輪って0.3ct~0.5ctぐらいが主流だっけ」と妙に納得してしまいました。
上記の話も前々からよく聞く有名な話ですが(「給料の3か月分」はデビアスが売りたいダイヤにちょうど釣り合う値段とか)、改めて書籍で読むとなんかズドーンとくるものがあります。
転売すると買い取り価格は安い
あまり知られていないことだが、個人所有のダイヤモンドを転売することは非常に難しいのだ。
確かにブランドのものではなく、鑑定書がないと、ダイヤの買い取り価格は二束三文になってしまうと聞いたことはあります。
転売を考えるなら金?なんならもうインゴットでも貰っておけというのか!(やさぐれ)。
愛の証のほかにはセレブにつけさせてイメージアップ
ゲレティが作った素晴らしく創造性の高い、革新的な世紀のキャッチコピーで、私たちの心の琴線がわしづかみにされている間に、その相棒のディグナムは、あらゆる場所で、憧れのセレブが皆ダイヤモンドを身につけているという状況を作り出していった。
必殺!「憧れの人につけさせる」攻撃・・・単純ですが、効果的なやり口。
某時計メーカーがサッカー選手に高額な時計をばんばん配ってつけてもらうのと一緒。現代でも頻繁に行われている宣伝方法です。
たしかにハリウッドセレブの婚約指輪、石の大きさ半端ない。
恋愛映画でもストーリーのカギとなるジュエリーが頻繁に登場します(タイタニックのネックレスとか、プリティウーマンのネックレスとか)。
薄々感づいていたことを文章で見るインパクトよ・・・。
販売戦略としては非常に優れていると思います。
筆者が舌鋒鋭く色々書いているので、いち読者ながら、ちょっとここまで書いていいのか・・・と心配になるほどの勢いでした。
歴史書として面白かった
デビアス社の話のインパクトがすごすぎてその話ばかり書いてしまいましたが、南米のエメラルド、イングランドのメアリーとエリザベスが争った真珠(ラ・ペレグリーナ)、帝政ロシアのインペリアル・エッグ、御木本の真珠養殖、腕時計の歴史など、歴史書としてとても楽しく読めました(個人的にはスペインの無敵艦隊とイングランド海軍の海戦のエピソードが面白かった)。
宝石に興味のある方、また世界史を楽しんで読みたい方にお勧めの本です。