余命一年と宣告された妻のために一日一話のストーリーを書いていく作家さんのお話です。
きっかけはアメトーーク!の読書芸人。
カズレーザーさんが泣いた本ということで紹介されていました。
ご夫婦の愛情を感じられる良い本でした。
「わたし、してもらいたいことがある」
と、妻がベッドに半身を起こして言いだした。
妻は、葬儀のとき、自分の名前だけでは誰のことかわからぬ人も多いだろう、と言うのだ。
私の本名は村上卓児であり、妻は村上悦子である。葬儀だから常識的には本名で行うのが普通だろう。
「だからお葬式の名前は、作家眉村卓夫人、村上悦子にして欲しい」
と、妻は言ったのである。
来られる人がわからないと困るからと理由をつけたが、妻の本心は、共に人生を過ごし、ずっと協力者であったことを証明したいーということだったに違いない。私にはそれが痛いほどよくわかった。
必ずそうする、駄目だと言われたら、そうしてくれる葬儀会社を、どんなことをしても捜す、と、私は約束した。
他人の思惑など、どうでもよかったのだ。
前年の三月に二人で松尾寺に詣ったさい、祈願の札に、病気平癒と書けと私が二度も言ったのに、妻は聞かず、文運長久とだけしるしたことが、よぎっていた。私の協力者であることに、妻は自負心と誇りを持っていたのだ。
「協力者であることへの誇り」っていいな、と感じました。
他人同士から始まって、最終的にお互いの一番の協力者になれるというのが結婚の良いところではないかと。
私も自分が結婚するときには超絶恐る恐るでしたが(結婚に関するネガティブな情報が氾濫しており怖くてしょうがなかった)、9年ほど経った今、「そんなに悪くない」と言えます。
本に掲載されているショートショートも楽しんで読めました。
こういうタイプ(星新一やレイ・ブラッドベリを思い出しました)の短い小説を読むのは本当に久しぶりで新鮮でした。