
大好きな小説、ダンス・ダンス・ダンス。
村上春樹の小説『ダンス・ダンス・ダンス』で学んだ、人と接する時の心構えについて。
『ダンス・ダンス・ダンス』にはアメとユキという母娘が登場します。
母親のアメにはアメリカ人のディック・ノースという恋人がおり、娘のユキは母の恋人を受け入れられず、ディック・ノースに対して冷たい態度をとります。
その後、ディック・ノースが交通事故で亡くなり、ユキは後悔の念を主人公に伝えます。
そこで主人公が言った言葉、読んでからずっと心に残っています。
以下、引用は村上春樹著 『ダンス・ダンス・ダンス』より。
「ねえ、私この前、彼についてひどいこと言ったわよね」
「ディック・ノースのこと?」
「そう」
「どうしようもない馬鹿だって言った」と僕は言った。
ユキはロードマップをドアのポケットに戻し窓枠に肩肘をついて、じっと前方の風景を眺めた。
「でも今思うと悪い人じゃなかった。私にも親切だったし、とてもよくしてくれた。サーフィンも教えてくれた。片腕なのに、両腕がある人よりしっかり生きてた。ママのことだって大事にしていた」
「知ってるよ。悪い男じゃなかった」
「でもひどいことを言いたかったのよ、私」
ユキは13歳の女の子。
母親の恋人と馴染めない、ひどい態度をとってしまうのは致し方ないことのように感じます。
「でも自分がひどいことをしたような気がする」
「ディック・ノースに対して?」
「そう」
僕は溜め息をついて車を道ばたに停め、キイを回してエンジンを切った。そしてハンドルから手を放して彼女の顔を見た。
「そういう考え方は本当に下らないと僕は思う」と僕は言った。
「後悔するくらいなら君ははじめからきちんと公平に彼に接しておくべきだったんだ。少なくとも公平になろうという努力くらいはするべきだったんだ。でも君はそうしなかった。だから君には後悔する資格はない。全然ない」
ユキは目を細めて僕の顔を見た。
~中略~
「具体的に嚙み砕いて言うとこういうことになる。人というものはあっけなく死んでしまうものだ。人の生命というのは君が考えているよりずっと脆いものなんだ。だから人は悔いの残らないように人と接するべきなんだ。公平に、できることなら誠実に。そういう努力をしないで、人が死んで簡単に泣いて後悔したりするような人間を僕は好まない。個人的に」
ユキはドアにもたれかかるようにしてしばらく僕の顔を見ていた。
「でもそれはとても難しいことみたいに思えるけれど」と彼女は言った。
「難しいことだよ、とても」と僕は言った。
この小説を読んでから、この場面、ときどき頭をよぎります。
働いていた時は苦手な人と接するとき。
また、友人や家族といて後で反省するような態度をとってしまったとき。
「後悔しないように。もし後悔するようなことをしたら、きちんと心にとどめておく。人とは公平に誠実に接する努力をすること」
全然この通りにはできていないのですが、時々でも思い出して、大事にしていきたい考え方です。